第8章 私が髪を切る理由(幸村)
「なんだ、佐助か。なんの用だ」
睨みつけるように幸村が言えば、
『すまなかった。幸。悪気はなかったんだ』
佐助は淡々と謝る。
「はぁ…。もういい。
お前の言うように、愛は俺のこと忘れたいのかもしれねぇしな…」
そう言うと、小さくなっていく愛と秀吉の背中に目をやる。
『秀吉さんか。いや決めつけるのは早い。
ちゃんと会って話してみたらどうだ』
「ちゃんと話して、面と向かって言われるのは…辛い」
弱気な幸村に、少し呆れた声で佐助は、
『幸は、その程度の気持ちで愛さんを好きになったのか?
少なくとも愛さんは、生半可な気持ちで未来に帰ることを
やめたわけではない。幸と生きていくと心に決めたからだ』
幸村は、怒ったような顔で、
「だったら何で秀吉と一緒にいて、あんなに笑ってるんだよ…」
と掠れた声を出す。
『それは、愛さんだからだ。
五百年後にいた時も、自分の兄に対していつも笑顔を向けていた』
「兄?」
佐助は表情こそ崩さないが、どこか哀しげな声で
『もう…いないけど…』
と呟く。
『とにかく、幸がちゃんと聞けばいい。
なぜ愛さんが急に髪を切りたくなったのか、を』
幸村は腑に落ちない表情で、
「おー。」
と、声を出す。
『俺に任せておいて。
幸はとりあえず、庵に戻って』
そう言うと、愛たちが消えていった安土城の方へ向かっていった。