第6章 恋の試練場 後編
『おい、どん底の家康はどうなったんだ?』
政宗が、吹き出すように笑っている。
『どん底って…。後で覚えていて下さいよ。軽口叩けないようにしてあげます』
家康は、政宗を睨みつける。
「どん底ってなに?」
不思議そうな愛は家康を覗き込む。
『なんでもない。で、俺はどうだったの。
相当嫌われてたみたいだけど』
「え?私、家康のこと好きだよ?
家康には嫌われてると思ってたけど…」
愛の「好き」という言葉に一同がシンとなる。
家康は目を軽く見開き愛を見る。
見つめ合う形になった二人を、愛の後ろからジッと三成が見据えている。
「家康の天の邪鬼は、わかってても辛い時はあるよ。
だけど、今は大丈夫。とっても心の深い人だってわかってるから。
さり気ないいっときも、ここぞの時も、いつも一番奥にあるのは優しさだったから…」
家康は、気まずそうに目線を外すと、
『あんたがいつも死にそうなだけだ…』
と小さく呟いた。
「愛様…やはり、家康様は…頼もしいですものね…」
三成の声に振り返ると、この世の終わりかというくらいの哀しみを携えた三成がいる。
そんな三成に、愛は極上の笑顔をむけ、
「三成くん。三成くんは、今も前も変わらずに私を守ってくれてるよ。ただ…」
愛が言い淀む。
場の空気が更に張り詰めた中、愛が続ける。
「前よりも、男らしいところが多くなって、毎日ドキドキする…」
顔を赧らめ俯く愛の言葉に、
『はぁ?』
と、周りからの声がする。
「でも、さっき家康様が好きって…」
三成に顔はまだ冴えない。
「え?そ、そういうんじゃないよ、家康も政宗も、秀吉さんも光秀さんも、
勿論信長様も、みなさん大好きだよ。本当に感謝してるし、昨日も言ったけど、
今の私の宝物のような人たちっていう意味」
愛の後ろで家康は少しがっかりしているが、愛は気づかない。
「それでは…」
三成が探るような目で愛を見る。
「大丈夫。私は三成くんが大切だし…
三成くんだけを愛してるから…」
最後は消え入りそうな声になるが、三成には届いた。
ついでに家康にも。