第6章 恋の試練場 後編
気怠そうな愛の声にドキっと胸が鳴る。
朝日に照らされた愛は、朝から妖艶に映る。
『起こしてしまいましたか愛様…』
戸惑いながらも声をかける。
褥の上に起き上がっていた身体をもう一度愛の元へと戻し、
そっと髪に触れる。
陽だまりの猫の様に、うっとりと三成の掌に身をまかせる愛の姿を見ていると、
だんだん色々なことが思い出されてきた。
(そうだ…愛様が家康様を可愛いって…それから…)
あの瞬間に湧き上がった、腹の中から溢れ出る感情を思い出す。
(抱き上げて此処へ…あぁ…そうか…)
全てを思い出し、昨夜の愛の姿まで思い出される。
『愛様、お疲れではないですか?』
優しく三成が声をかけると、まだ眼を閉じたままの愛が
「ばか…」
と、照れくさそうに呟く。
その何とも愛らしい姿に、撫でていた手を止め、
愛の身体をぎゅっと抱きしめる。
愛の頬に口づけを落とした瞬間…
『おい、三成いるか…』
なぜか、庭側の障子の外から秀吉の声がする。
「秀吉さん?!」
愛が驚いて声をあげると、
『あけるぞ』
という声がかかり…
「いや、まって、あの、その…」
愛が慌てる間に障子は勢いよく開かれ、
秀吉の目には、褥の中の素肌の肩が二人分映る。
『え、おま、ばかっ、ごめ…』
秀吉は、想像を超えた目の前の状況に慌てて障子を閉め、
『悪かった…』
と呟き、
『だがな、もう朝餉の時間だ…』
心なしか落ち込んでいるような声で秀吉が言う。
『あ!申し訳ございません!すぐに支度を…いたた…』
「わ!もうそんな?きゃぁっ」
急に起き上がった三成は、二日酔いの頭痛に、
急に布団を剥がれた愛は、自分の露わになった姿に声をあげる。
『お、おい、大丈夫か…』
秀吉の心配そうな声。
『お前、晴着だろ。それで朝餉は流石にまずいだろ…』
その声の後、そーっと障子が開かれると、隙間から何時もの三成の着物が覗く。
『多分もう直ぐ、家康がここに来る。早くそれ着ろ。
まったく世話の焼ける奴らだな…俺は先に広間に戻ってるから』
そう言うと、足音が遠ざかっていく。
愛はその間に自分の着物を纏い終わる。