第6章 恋の試練場 後編
『あんたのお陰で本能寺の首謀者も特定できたんだ。
黙って受け取っておきなよ』
家康が口を挟む。
「でも…」
それでも申し訳なさそうな愛。
『愛。お前がした事は手放しでは褒められないが、
悪い事をしたわけじゃないんだ。
ちゃんと、信長様の意向も受け取っておけ』
秀吉も愛を諭す。
「わかりました。では…」
愛は少し考えてから、武将たちを見渡し、
「明日からまた一緒にここで、食事を取らせてください!」
そう信長に言う。
信長は呆れたような顔をして
『そんな事でいいのか?貴様は本当に無欲だな』
と、愛の顔を見る。
『どんな着物や宝を望むかと思えば、
やはりお前は誰も想像出来ない事を考える』
光秀が愉快そうに笑う。
「いいえ。私はちゃんと宝物頂いてます。
ここに来てからの、私の宝物は皆さんと過ごす他愛もない毎日ですから」
そう言うと、満面の笑みを漏らす。
誰も声には出さないが、その笑顔と言葉に心を鷲掴みされていたのは言うまでもない。
『三成…やっぱりあんたとは仲良くできないと思う…』
家康がボソッと溢す。
『いいのか?愛。俺たちと飯を食うってことは、
三成と二人きりの食事ができなくなるんだぞ?』
政宗が少し悪い顔をして言うが、
「大丈夫だよ!三成くんとは二人で食事するだけが大切な関係じゃないし」
サラッと言いのけた愛に、当の三成は顔を真っ赤に染めて、
『愛様…』
と小さく呟く。
『これはずいぶん当てられたものだな。
貴様ら、今日は存分に飲んで晴らせ』
信長の楽しそうな高笑いが広間に響く。
そうして、宴は夜も更けるまで続いた。
愛が三成に送られて自室に戻ったのは、
日を跨ごうかと言う時間だった。
三成は、酔った秀吉と光秀、シラフなのに一番しつこかった政宗に、
代わる代わる愛とのことを尋問され、酒を飲まされていた。
「三成くん、大丈夫?」
酒で顔を赤くしている三成を覗き込む。
『大丈夫ですよ。でも、しつこかったですね…』
思い出すように顔をしかめる。
『実は何より、隣の家康様からそっと差し出される酒の量が一番多かったです』
「えぇ!そうだったの?!」
場面を想像して愛は堪えきれず吹き出す。