第6章 恋の試練場 後編
三成は、愛を咄嗟に受け止める。
うっすら涙を浮かべて、笑顔で自分に抱きつく姿に、
無意識に抱きしめ返し、優しく背中を撫でた。
「三成くん…ありがとう。大好き」
『私もですよ、愛様』
そう言って腕に力を込める。
抱き合いながら、笑顔で見つめ合う二人に、
隣から冷たい声がかかる。
『あんたたち、ここどこか解ってる?』
家康のジト目が二人を見ると、
ハッとしたように、離れる愛と三成。
その様子に、信長は、
「はははっ」と愉快そうに笑い、
『三成、俺の所有物に手を出した上に、
そこまで大胆に振る舞えるとはな。
其処まで肝を据えてこそ、織田の参謀よ。
これからも、大いに期待するぞ』
そう言うと、もう一度高らかに笑った。
『少しは俺にも貸し出せ、三成。
愛、酒を注げ』
「はい!」
今度は笑顔で信長の隣へ並び、酒を注ぐ。
「信長さま、本当に有難うございました。
お店が出来上がりましたら、是非食べに行こうと思います」
『あぁ。三成と共に行ってやれ。
それと、お前にはもう一つ報告があるぞ愛』
キョトンと信長を見上げる。
『みよしの という反物屋は知っているな?』
「はい。先日三成くんに紹介されたお店です」
『お前が眠りこけている間に、みよしの より、石田三成宛に
毎月反物が献上されることが正式に決まった』
よくわからないような顔をしている愛に、三成は、
『毎月、みよしの様から新作の反物が献上されます。
通常の献上品はお城に届くのですが、今回の献上品は
愛様と私がみよしの様に出向いて、
愛様が欲しいものを献上される事になっております』
「え…そんな、悪いよ!」
驚く愛に、
『献上品とは、献上する側の気持ちをしかと受けねばならん。
今回は、 三成に当てられる献上品で滅多にないことだ。
しっかり受け入れてやるんだな』
そう、信長が微笑む。
「わかりました。ご挨拶がてら、また三成くんに、
みよしのさんへ連れて行ってもらいます」
そう微笑む。
『この度は安土の未来ある民を良く救ってくれたな。
愛。褒美をとらせる。何が望みだ?』
酌を受けながら信長が言う。
「そんな!褒美を頂くような事はしていません」