第6章 恋の試練場 後編
突然笑い出した愛に驚く一同だったが、
すぐに皆、顔を綻ばせて見合わせる。
『お前がそうやって笑ってないと、
やっぱり意味がねぇからな。ずっと笑ってろ』
政宗が笑うと、愛は少し恥ずかしそうに、
微笑みながら「うん」と首を縦に振る。
そして、料理に箸をつければ、満面の笑みで
「美味しい」と笑った。
(長かったな…この笑顔を見るまで)
政宗は胸を鷲掴みされる思いで愛の笑顔を眺める。
『そう言えば、愛は信長様に話があったんじゃないのか?』
思い出したように秀吉がふる。
愛は真面目な顔になり、信長に向き直る。
「はい。
信長様…城下へ出掛けても宜しいでしょうか」
『なんだ、そんな事か?』
信長は、わざわざ話があると言うので、
もっと突拍子もない事を言い出すのかと思っていたのだ。
しかし、家康と三成は愛の発言に途端に心配そうな顔した。
「城下へ出て、迷惑をかけてしまいました…
勝手に出かけるわけには行きませんので…」
そう愛が言うと
『貴様は自由にしていろと行ったはずだ。
どこに戻ればいいかはわかっているな?
それさえ忘れなければ、自由にしろ』
「はい。ありがとうございます」
『愛様、なぜ信長様の許可を貰ってまで、
城下へ行きたかったのですか?』
三成の質問に愛は少し顔を曇らせる。
「火事のあった場所に…」
『え?』
家康が訝しげに愛の顔を覗き込む。
「あの親子がどうしているのかが気になって…。
お店は全焼してしまったなら、もういないのかもしれないけど、
でももしかしたら逢えるかもしれないから…」
『そういう事でしたか』
三成が笑顔でホッとしたように言う。
『それなら安心しろ愛』
秀吉が口を挟む。
「え?」
愛がキョトンと秀吉を見る。
『お前がきっとそう言って心を痛めるだろうからと、
三成が信長様に談判して、新しい店を建築させたんだ』
愛は言葉も出ないくらい驚いて、三成を見る。
『まだ、愛様とお蕎麦を食べる約束が果たせてませんからね』
その言葉を聞いて、愛は人目もはばからず三成に抱きついた。