第6章 恋の試練場 後編
『愛…』
愛は呼ばれ慣れない自分の名前に、ドキンと胸が鳴るのを感じる。
「はい…」
抱き締めたまま三成は愛の首筋にキスをする。
「あ…」
急な刺激に身体を震わせ声を漏らす。
三成は、ほんのりと火傷の跡がわかるうなじにも口づけを落とす。
「み…三成く…」
『三成で。私だけが呼び方を変えるのは不公平です』
耳元で囁くような三成の声。
「ん…あ、み、三成…耳元で話さないで…」
『広間に行かせたくない。私だけの愛にしてしまいたい…』
そう言うと手を緩め、身体を離す。
『でも、皆さんお待ちかねですからね。そろそろ行きましょうか』
急に何時もの三成に戻るが、愛のドキドキはおさまらず、
未だにぼーっと上気した顔で三成を見つめている。
『愛?そんな顔、本当に他の人には見せないで下さいね?』
三成は本当に不安そうな顔になる。
「三成が…いけないんだよ…」
少し口を尖らせて拗ねてみせる。
『ふふ…なんだか、二人だけの呼び方も悪くないですね。
さぁ、参りましょう。皆さん痺れを切らす頃ですよ』
そう言うと立ち上がり、愛に手を差し伸べる。
愛はその手を取り立ち上がる。
襖を開けてから広間へ行く間、またもや、女中たちの溜息や、
城内の家臣らからの「お似合いなお二人…」という声を
真っ赤になりながら、かいくぐって行く事になった。
『お待たせ致しました』
三成が先に広間に入り、後を愛が続く。
広間には、愛が予想した通り、
政宗が作った料理が所狭しと並べられ、
武将たちは既に皆席に揃っている。
手を繋いで入ってきた二人を、信長は目を細めて口元で笑う。
「ほぅ。着飾ったか。
近くに来てよく見せろ」
そう愛に声をかける。
愛は三成との手を解き、信長に近づいていく。
三成は、解かれた手を握りしめ、自分の席に着く。