第6章 恋の試練場 後編
『変どころか…。美しすぎて、誰にも見せたくないくらいです…』
そういう三成の目の奥には、今まで感じた事のない火が揺れているようだった。
「あ、ありがとう…。信長様が、着飾って来いって言うから…」
言い訳のように愛が言葉を紡ぐ。
『愛様、もう少し近くで見させて下さい。
広間に行けば、皆様に構われてしまう愛様を、
今だけは独り占めしたいのです』
瞳の奥に火を携えたまま、三成は熱に冒されたように願い出る。
「私も、こんな格好良い三成くん、広間に行くまでに、
他の女の人に見せたくないな…」
心の声がぽろりと溢れると、三成は目を見開く。
『私…ですか?』
「だって、三成くん、女中さんたちからも色気があるって大人気なんだから…」
愛が少し拗ねたよう口調で言う。
三成は笑顔で愛に近づきそっと両手を取ると
『もし、私がその様に皆様に万が一思われたとしても、たった一人、
愛様に想って頂けなければ何の意味もない事です』
そう言うと顔を赧らめながらも更に笑顔を深める。
『愛様…私がお慕い申し上げるのは、愛様だけです。
こんなに胸焦がれる事も初めてで、他人に嫉妬する事も…
愛様には私だけを頼って欲しい…こんな独占欲が自分にあるとは
思いませんでした。私は愛様しか見ていません。だから安心して下さい』
そう言うと掴んでいた愛の手を自分に引き寄せ、
そのまま優しく抱き締める。
「三成くん…」
『本当は口づけしたいのですが、折角の素敵な化粧が崩れてしまいますからね。
その代わり、少しの間、こうさせて下さい。
愛様が今生きていることを確かめさせて下さい…』
トクトク…と三成の心臓の音が愛にも伝わり、身体は熱をあげる。
「三成くん…ずっと私の事、愛様って呼ぶの?様なんていいのに…」
恥ずかしさを誤魔化すように、そう不満を漏らす。
『そうですね…愛様は織田家所縁の姫様ですからね…でも…』
三成は自分でも体温が上がるのがわかる。
「でも?」
『二人だけの時は、私の姫に…』
そう言うと少しだけ抱き締める腕に力を込める。