第6章 恋の試練場 後編
夕刻、愛は自室にて、
信長に言われた通り精一杯のお洒落をしようと準備をしていた。
きっと、政宗が料理の腕を振るうのだろう。
光秀は酒を飲みながら、意地悪に揶揄い、
秀吉がきっとそれを怒りながら制する。
みんなに知れてるからには、三成の事も酒のつまみにされるだろう。
その時の家康はきっと不機嫌そうに冷たく言葉を呟く。
そんな武将たちと愛を、信長は動じることなく眺め、
笑みを浮かべている。
そんな想像が愛の頭に浮かぶ。
けれど、今までのように溜息をつくような事ではない。
何故かわからないが、その光景を目の当たりにする事が今では楽しみで仕方なかった。
「三成くんの言う通りだったな…」
仕立ててから袖を通していなかった、晴れ着用の着物をしっかりと着付け、
鏡の前で髪を結いながら呟く。
『何が言う通りだったんですか?』
襖の外から楽しげな三成の声が不意にする。
「三成くん?!」
『はい。愛様、入っても宜しいですか?』
「今ちょっと手を離せないんだけど、どうぞ入って?」
愛は襖に向かい返事をする。
スッと襖が開くと、
晴れ着に、愛が仕立てた羽織を着た三成が現れる。
『愛様…』「三成くん…」
ほぼ同時に二人が互いの名前を呼ぶ。
三成は、愛の艶やかで上品な赤の晴れ着姿に、
愛は、三成が羽織によく馴染む綺麗な薄紫の凛々しい晴れ着姿に、
互いに目を奪われてつい名前だけを呟いたのだった。
「ごめんね、今すぐ終わるからっ…」
慌てて髪を仕上げる愛に、
『ゆっくりで大丈夫ですよ。まだ宴までは時間がありますから』
と、顔を赧らめた三成が言う。
長い髪を巧みに結い上げる愛の姿を、三成は後ろに座り眺めている。
『上手なものですね…愛様は本当に器用なんですね』
と、感心するよう呟く。
「そんなにじっと見られると恥ずかしいよ…」
鏡越しに映った三成を見ながら、愛も頬を染める。
仕上げに、三成からもらった簪をさせば、クルッと後ろに向き直り、
「変じゃないかな?」
と照れくさそうに三成に訊いた。