第6章 恋の試練場 後編
「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。
もうすっかり治って、普段通りの生活をしていますよ」
そう、心配してくれる家臣に申し訳なさそうに謝る。
『お元気になられたになら良かったです。
愛様の姿が見えないと、城全体が落ち込んで見えてしまいますから。
あ、中の様子でしたね。今まさに軍議の最中ですが、そろそろ一度休憩される頃かと思いますよ』
そういうと、家臣は笑顔で教えてくれた。
「そうでしたか。あの、信長様に言伝をお願いして宜しいですか?」
『承りましょう』
二つ返事で快く愛の願いを聞いてくれる。
「今すぐでなくて構わないので、信長様とお話をさせていただければと…」
そこまで言うのと同時に、広間の襖が開き、中から政宗が出てきた。
『休憩でございますか?』
家臣が訊く。
「あぁ、後は昼餉を取りながらになった。
お、愛どうした?身体は大丈夫か?何か用だったか?」
そういうと、愛の頭をクシャっと撫でる。
「う、うん。身体はもう大丈夫だよ。
ちょっと、信長様にお願いがあって…」
少し驚いたような顔した政宗だったが、すぐにいつもの笑みを携え、
「そうか。ちょうど良かった。今日の夜はお前の快気祝いの宴をする事になった。
ちょうど、愛に伝えに行くところだったんだ」
愛はそれを聞くと申し訳なさそうに、
「でも…自分のした事で散々迷惑をかけて、政宗にだって火傷まで負わせて…
快気祝いなんてしてもらう道理ないよ…」
そう俯いてしまう。
「お前、いつまで俺たちを避ける気なんだ?
辛い事に目を背けて…そんなんじゃ、楽しい事だって遠ざける。
お前の好きな事も自由にできなくなる。
そんな毎日で本当にいいのか?」
いつになく真面目な声の政宗に、愛は顔をあげる。
「俺たちがお前といたいんだ。
確かに、三成には奪われたかもしれねぇけど、
それはきっと必然だ。俺たちも、もっとお前の気持ちを察してやるべきだった。
悪かった。この通りだ」
そう言うと、家臣の前であるにもかかわらず、政宗は深く頭を下げた。