第6章 恋の試練場 後編
愛が目を覚まして、数日。
すっかり元気になった愛は、安土城の自室に戻っていた。
戻った初日は信長と秀吉に呼ばれ、
本能寺の火災の際に見たものを細かく説明していた。
愛の報告以来、ずっと光秀は顕如を探っていたが、
幾つかの裏も取れ、顕如の仕出かした事はほぼ明白となっていた。
家康からの許可も出て、愛は普段の生活へと戻る。
そんな中、ずっと気にかかっていることがあった。
(蕎麦屋の女将さんと息子さんはどうしているだろう…)
ご主人の跡を継いで、店を切り盛りしながら女手一つで子供を育てていた
女主人の姿が脳裏から離れない。
店は全焼したと聞いていた。
(会えるかどうかはわからないけれど、
城下へ出かける許可を貰おう)
そう考えていた愛は、意を決して信長に直談判をしに広間に向かっている。
まだ、武将たちが揃った所へは出くわしていない。
顕如との戦も控えていると、秀吉から聞いていた。
皆が忙しくなり、三成も例に漏れず、参謀としての役割で日々忙しいようだった。
(こんな時に、信長様は会ってくれるかな…)
自分に構っている時間がないのは百も承知だったが、
毎日思い悩んでいるのも性に合わない愛は、
駄目元で今、信長に会いに来ている。
広間の入り口には、見張りの家臣が二人ついている。
(見張りがいるって事は、外に漏れてはいけない軍議中かな…)
今すぐ会えなくても、用がある事だけは伝えてもらおうと、
家臣の一人に声をかけた。
「すみません…あの、今は軍議の最中でしょうか」
愛が声をかけると、家臣の一人が驚いたように口を開く。
『愛様!もうお身体は宜しいのですか?』
愛が城下で火事に飛び込んだことは、城の者の殆どが知っている。
と、いうより、愛は知らなかったが、城下の民の間でも有名な話になっていた。