第6章 恋の試練場 後編
髪を結い上げると、三成の目には愛の火傷が目に入った。
そんなに深いものではないが、皮膚が少し爛れた痕がある。
その傷に三成の指がそっと触れる。
ビクっと愛の身体が揺れる。
『愛様、痛みはありますか?』
三成が傷に触れながら言う。
「ううん。首を捻るとちょっとだけ。普通にしてたらなんともないよ」
愛が答える。
『家康様の薬は本当によく効きますね。
後ろ、このまま拭いて差し上げます手ぬぐいを貸して下さい』
「え…でも…」
恥じらう愛の手から、そっと手ぬぐいを奪うと、
桶に浸ける。
「下ろしますよ」
優しく声をかけながら、襦袢を下ろすと愛の綺麗な背中が露わになった。
「み、つなりくん…」
恥ずかしさのあまり、それ以上言葉が出せないでいると、
背中に温かい感触があたり、優しく拭かれていく。
「早くしないと風邪をひいてしまいますからね。
愛様は、そのまま前をお拭きください」
そう言うともう一つの手ぬぐいを湯に浸け、絞り渡す。
「ありがとう」
まだ恥ずかしさは残るが、三成の優しさが嬉しかった。
(今どんな顔してるのかな?)
愛の好奇心が顔を覗かせる。
思いっきり振り向くことは、この状況ではできない。
愛と三成の中間に置かれた桶で、
三成が手ぬぐいを湯に浸す時に、
「三成くん」
と、声をかけた。
不意打ちで名前を呼ばれた三成は、
驚いて、ぱっと愛に顔を向ける。
その表情はと言えば、少し目元から頬を赧らめ、
いつもより潤んだ目に見える。
『如何されました?どこか痛かったですか?』
心配そうに三成が聞くと、
「ううん。ただ…三成くんの顔が見たかっただけ」
そう言って微笑む愛に、
『愛様…本当の不意打ちだったのですね…
この状況で、その発言と笑顔は…反則です。
絶対他の人達には見せないでくださいね』
そう言うと更に顔を赧らめ、そっと背中に口づけを落とす。
「あっ…」
三成からの不意打ちを食らった愛は、小さく声が漏れる。
『織田の参謀である私を敵に回していい事はありませんよ』
三成はニコッと笑いながら言うと、新しい襦袢を手に取り、
剥き出しの背中にそっとかけた。