第5章 恋の試練場 中編
『まったく…あいつらの分どうすんだよ』
政宗が面白くなさそうに2人分の膳を見る。
「三成くんは戻ってきたら食べて貰えば?」
そういう愛に、今度は家康が面白くなさそうに、
『あんたさ…三成のこととなると必死すぎ』
そう言って、目の前の箸を取ると、
政宗が家康用に味をつけた料理に手をつける。
「だって…私のために傷ついてる三成くん見てるのは辛いよ…。
いつも一緒にいてくれて、幼馴染みたいに手を繋いだり、
弟みたいに一緒に遊んだり、ご飯食べたりしてたのに…」
家康はその言葉に、食べていた芋を喉に詰まらせ目を白黒させ、
政宗は、これ以上面白いものが無いというくらい笑い転げている。
『ゴホッ…ゴホゴホっ…』
『あははは…愛…お…幼馴染…って…あっははは』
一人わけのわからない愛は、二人の反応にムッとして、
「何がおかしいのよ!」と口を尖らす。
今まで盛大に笑ってた政宗が、急に大真面目な顔になり、
『愛、三成を元気付けたいのなら、今の言葉は絶対に言う…な。ははははっ』
堪えきれずまた笑い出す。
お茶をすすって落ち着いた家康は、
『愛って…もしかしてすっごく鈍感なの?
いや、鈍感なのは知ってたつもりだけど…』
「失礼な!鈍感鈍感て言わないでよ!」
さらに機嫌を損ねる愛。
『なぁ、愛。三成はどう見ても、お前のことが好きだぞ』
急な政宗の言葉を愛は一切信じない。
「またそうやって揶揄って!!」
『ま、三成本人は恋には気づいて無さそうですけどね…』
家康が政宗に言う。
『そうじゃなきゃ、愛の意識が戻らないくらいで、
切腹するなんて発想にならないでしょ…』
家康にそう言われた愛は、二人の話を総合した上で
抱きついたり、手を繋いでいた事を思い出し、
ゆでだこのように顔を真っ赤にした。
「ごはん…たべる…」
いたたまれなくなり、話題をそらす愛。
『おぉ、食え。お前のために作ったんだ。それで…』
(笑顔見せろよ…)
いつもより柔らかめに作られた、粥には丁寧にほぐされた白身魚が煮込まれて、
優しい塩分が口いっぱいに広がる。
何日も何も食べていなかった愛の胃袋に、じわっと暖かさが広がった。