第5章 恋の試練場 中編
愛は、なぜ今まで空腹を感じなかったのかが不思議なくらい、
匙を運ぶのが止められない。
(私、生きてるんだな…)
食欲がこんなに自分に生きている実感をもたらすものだろうか。
食べ進めるうちに、粥とは違う塩味が喉の奥に感じられ、
愛は急にパタリと動きを止め、初めて政宗を向く。
するとそこには、愛が食べ始めてから一時も目を離さないでいた政宗の目があった。
「美味しい…政宗、ありがとう…」
そういうと、堪えきれない涙がポロリと溢れた。
涙を流しながらも、口元で微笑む愛に、
政宗はドキリと胸が鳴る。
『なんで、泣きながら笑ってるんだよ。
うまいか?』
(こんなに愛しいと思う笑顔が世の中にあるか?)
政宗は顔を綻ばせながら、そっと愛の頬に伝う涙を拭いた。
「うん。本当に美味しい。
政宗、家康、本当にありがとう。私…生きてるんだよね…」
その言葉に、家康は箸を止めてハッとして顔をあげる。
『あんた…』
(さっきのは、自分が生きてるかを確認してたのか…)
『本当だぞ、愛。
もうあんな無茶しないでくれよ。炎の中でお前が倒れてるのを見たときは、
正直覚悟したぞ…』
そう言うと、政宗は両手で愛の頬を挟む。
愛は違和感を感じ政宗の手を見た。
『あ…』
政宗はしまったとばかりに、慌てて手をひこうとするが、
それより先に愛の手に捕まった。
「政宗…これ…火傷?」
愛が震えた声で訊く。
『大したことない…俺の薬塗ってるんだから、すぐ治るよ』
家康が政宗の代わりに答える。
『こんなの、怪我にもならねぇよ。気にすんな』
政宗が言う。
「ほんと私、迷惑かけてばっかだな…」
そう二人の顔を見て力なく笑うと、向き直り
ゆっくりと粥を口に運ぶ。
「本当に美味しい…」
小さな声で呟くと、それ以降愛は二人と会話することはなかった。