第5章 恋の試練場 中編
いつも隠密で情報収集している光秀の冷たい視線、
織田の参謀として頭脳を生かす三成の真面目な目、
普段から、天邪鬼で滅多に笑わない家康に見つめられた愛は
三人の物凄い圧に、いつになく緊張して、声を出すのがふるえる。
(多分、この一言はとても重要なことなんだ…)
『お、おい…幾ら何でもお前ら顔が怖すぎるだろ…
愛が緊張してるぞ…』
ただならぬ空気に、さすがの政宗も忠告する。
「大丈夫です」
そう言うと深呼吸する。
「私があの日炎のなかで見つけ、その後森で出会ったのは、
顕如という男の人です」
「顕如…そこは盲点だった。
でも、十分あり得る話だ。
でかしたぞ、愛。」
そう言うと、光秀はサッと立ち上がる。
『おい、どこに行く。飯は…』
引き止める政宗の言葉を遮り、
「愛。悪いが食事をしたら城に来てくれ。
信長様に詳しく報告する。
三人とも愛を連れて、一緒に来てくれ」
そう言うと、光秀は立ち上がる。
『光秀さん、流石に愛を今連れて行くのは無茶ですね』
家康が訝しげに言う。
「今日でなくてはだめだ」
『では、そちらが出向いて下さい』
家康も一歩も引かない。
『私が、光秀様と一緒に、
信長様と秀吉様に相談しましょう』
三成もサッと立ち上がる。
「三成くん…」
愛が心配そうに呟く。
『大丈夫です。愛様。必ずもう一度来ますから』
先ほどより優しい声色で言う。
「絶対戻ってきてね?
さっき、直ぐ戻るって言ったのに、来てくれなかったから…」
そう口走って慌てて言い訳をする。
「あ、あの、三成くんが忙しいのはわかってるから。でも…」
一生懸命に言葉を紡ぐ愛に、三成は目を見開き驚くが、
フッと口元を緩める。
『心配かけてしまいましたね。愛様。
先ほどは、皆さんに一刻も早く愛様が目を覚まされたと
お伝えしたくて、バタバタしてしまいました』
そう言って微笑む。
『必ず戻りますよ。待ってて下さいね』
そう言うと、部屋を出る。
廊下に出た三成は、一瞬にして笑みを消した。
(はぁ…なんだか、今日は胸がモヤモヤしたり、
チクチクしたり…心の臓の病でしょうか…)
後で家康に相談しよう…
三成は、急いで光秀を追った。