第5章 恋の試練場 中編
家康に呼ばれた愛は、自分の状況がいまいち把握できずにいたが、
条件反射のように三成を抱き締めたことをジワジワと思い出し、頬を染める。
「家康…私、寝てたの?みんなは?」
『あんたは、信長様たちがいる時に、急に眠りに落ちて
さっき魘されてたから起こしたら、なんか変だったから…
夢、見てたの?』
掻い摘んで話す家康に、
『愛様は、目を覚まされる前もずっと魘されていました。
あの日の夢を見てしまうのでしょうか…』
そう言いながら、辛そうな顔をする。
「夢?」
愛はそう言うと、何かを思い出すように考えている。
(そう言われれば、ずっと同じ夢を…)
「違う。あの時じゃないの。もっと前。本能寺で…」
『本能寺…ですか?』
三成はさっきまでとは違う真面目な顔になる。
『違う火事を思い出してるってこと?』
(本能寺で誰かを見た…誰を…)
そこまで考えてハッとした顔をする。
「そう。本能寺で私は信長様を襲った人を見たと思う」
『えっ?!』
二人揃って声をあげる。
「炎の中にいた人に、私は森の中で会ったの。
きっと、夢じゃない。でも記憶から無くなってたんだと思う」
『ほぉ?その先しっかり聞かせて貰おうか』
そう言いながら、光秀が襖を開けて入ってきた。
『なんであんたがいるんです、光秀さん』
そう家康が聞くと、
「光秀様も政宗様に呼ばれたのですか?」
と、三成が訊く。
『そうだ。
久しぶりに愛の間抜けな顔を見ながら食事をすると言われてな』
そう言うと、光秀は愛の顔を覗き込む。
「間抜けって…。
政宗がいるの?」
不思議そうに部屋を見渡す愛に、家康は
『今夕餉を作ってもらってる。
愛を入れて四人じゃなくて、愛以外に四人だったのか…』
(勝手に人の御殿に呼んでるし…)
『それで?愛、お前は本能寺で誰を見た?』
光秀の刺すように鋭い目線が突き刺さる。
「私は…」
「出来たぞー」
褥の上からは愛の真剣な顔、
シャっと開いた襖からは、政宗の呑気に笑っている顔が
同時に声を出す。
「おいおい、どうした、そんなにみんな…
愛まで恐ろしい顔で…」
『政宗、今は黙れ。重要な話だ。
それで?誰を見た?』