第1章 ワームホールはすぐ側に(家康)
「すまん。立ち聞きする気は無かったんだが…
さっき、愛が泣きながら凄い駆け足で帰ってきたから、
どうしたかと話を聞こうと思ったんだが、
部屋に閉じこもったまま出てこない。
女中に聞いたら家康のとこで夕餉を食べていたはずと
言っていたから、お前と喧嘩をしたんだろうとは思ったんだが、
愛の様子がこれまでと違うから心配になって
家康に会いにきたんだ。」
そこまで一気に伝えると、
「よかったら、その話、俺にも聞かせてくれるか、佐助。」
と、家康と佐助の傍に秀吉が胡座をかく。
『私はもちろん構いませんが、家康さんがよろしければ。』
「いいよ。どうせ秀吉さんには俺が愛を泣かせたこと
ばれてるんだし…手間が省ける。」
家康は少しバツの悪そうな顔でそういうと、
佐助に続きを促した。
『では、続きを…
その事故で亡くなったのは、元恋人と、お兄さんの2人です。
愛さんは、一気に大切な人を2人亡くしました。
その2人が亡くなったのを、自分のせいだと思い悩んだ愛さんは、
死に場所を探して京都を訪れ、その時にタイムスリップに巻き込まれ
この時代に辿りついたんです』
「なんで…愛は自分のせいだと思ってるの?」
家康が、誰もが聞きたいであろう部分を質問する。
『愛さんは、ずっと、デザイナーという職業に着くことが夢でした。
今やってる仕事と、内容はそんなにかわらないですが、500年後では
売れれば今よりずっと華やかな世界に身を置くことになります。
自分の考えた着物や服で、着る人を笑顔にしたい、
いつもそう熱く語っていました。
その夢を掴むために、愛さんは辛い仕事も笑顔で引き受け、
お金にならない様な小さな仕事も、徹夜をすることも厭わず、
一生懸命でした。
その甲斐あって、一大チャンス…ええと、好機がやってきて、
ついに自分の手で作品を披露する場に恵まれたのです。』
「あいつ、やっぱり昔から頑張り屋だったんだな。」
秀吉が、優しい目で想像する。