第5章 恋の試練場 中編
一瞬にして、部屋中に不安な空気が流れたが、
愛を寝かした家康が口を開く。
『三日間、何も食べずに眠っていたので、体力が無いだけです。
問題ありませんよ、きっと』
「確かに、更にやつれたな愛は。」
と愛の頭をさすりながら光秀が言えば、
『政宗が戻れば、粥を作らせる。
それまでゆっくり寝ているんだぞ?』
と秀吉が愛の頬に触れる。
その傍で、家康はずっと不機嫌な顔だ。
「後は、しっかり体力をつけて、早く戻れるようにするんだな。
では、ゆっくり休め」
信長は全員の愛への構いっぷりを満足そうに見ながらそう言うと立ち上がる。
「俺は城に戻る。あとは任せたぞ、家康。
元気になったら、城に連れてこい。急がぬのでな。
光秀、行くぞ」
光秀も信長と一緒に立ち上がる。
襖を出ようとした時に、「忘れていた…」と振り返る。
「御館様から愛への差し入れだ」
そう言うと、金平糖の包みを家康に手渡し、
「秀吉には見つかるな、との事だ」
と、秀吉を見ながら笑う。
『愛になら構わん』
秀吉は不愉快そうに光秀を見る。
「何処から持ってきたかの話だろう?」
そう言って去っていった。
部屋には家康と秀吉、そしていつの間にかスースーと寝息を立てている愛だけになった。
『家康、お前の身体は大丈夫か?
寝てないんじゃないのか』
心配そうに秀吉が言う。
「大丈夫ですよ。愛の隣で寝てますから」
至って真面目な顔で家康が言う。
『え?おまっ…何を…』
慌てる秀吉にため息を一つつき、
「何を想像してるんですか。
そこに俺の床を用意させてるだけですよ」
と、面倒くさそうに目線を屏風の裏にやる。
『そ、そうか…でもあんまり渾つめすぎるなよ。
何かあれば、いつでも言え』
そう世話を焼く。
「ありがとうございます。でも、これは俺の仕事なんで…
お気になさらず」
そう言うと、愛のかけ布団を直してやった。