第5章 恋の試練場 中編
『だから毎日あんな顔してたのか…
自分に対して覚悟を決めてたって事か』
家康は独り言のように呟き、妙に納得した顔をした。
「そんな…三成くん悪くないよ!」
愛が泣きながら訴える。
秀吉はそんな愛に向かって笑顔を見せる。
「誰も、あいつが悪いなんて思ってないから安心しろ。
三成の申し出にも、信長様は軽く笑って却下した」
そう聞いて少し安堵する。
(そうか…)
家康も心の中で安堵した。
(え?なんで俺がホッとしてんの!あんなの、いない方がいいだろう!)
自分で突っ込みを入れながら。
「だから、愛にお願いがあるんだ」
秀吉が真剣な顔で愛を見つめる。
「わ、私に出来ること?」
不安げに訊く。
「お前にしか出来ないことだ」
そう告げられ、愛は心を決める。
「わかった。何をすればいい?」
その言葉に、秀吉はフッと口を緩め、
「三成を笑顔にしてやってくれ」
そう言って、愛の頭をポンポンと叩く。
目をまん丸にして驚く愛に、秀吉は続ける。
「お前が三成にだけ心を開いてコロコロ笑っていたように、
今度は、三成の傷をお前が癒してやって欲しいんだ。
俺にも誰にも出来ないかもしれない。
でも、愛なら出来る」
『まぁ…出来るだろうね。
悔しいけど』
家康も言う。
「え?家康が三成くんを笑顔にしたいの?」
はぁ…家康のため息が聞こえる。
「おい、今の悔しいは、そっちじゃないだろ、普通」
秀吉が笑う。
訳のわからない愛はきょとんとしているが、
『あんた達、ほんと似た者同士だわ…』
と呆れ気味に家康が言う。
「ま、そういう事だから、急がなくていい。
愛の具合がしっかり良くなったら、
三成を助けてやってくれ」
「出来るかわからないけど、三成くんが私のせいで辛い顔しているのは嫌だから…
あの天使の様な笑顔見れないなんて、私一生癒されないし…がんばる!」
愛の優しくて悪気のない無遠慮な言葉は、
ほんのりと家康と秀吉の心を抉っているのだが、
当の本人は気づくわけがない。
そんなやり取りの中、外から複数の足音が近づいてきていた。