第5章 恋の試練場 中編
足音が止まると、勢いよく襖が開く。
飛び込んできたのは秀吉だ。
「愛!!」
そう叫びながら、褥に座る愛をガバっと抱きしめる。
「ひ、秀吉さん…」
予想よりも遥かに上回る状態に、愛はしどろもどろだ。
『秀吉さん、まだ火傷も治ってないんですから…』
家康の厳しい声が飛ぶ。
それでも秀吉は愛から離れようとしない。
普段は見せない取り乱した秀吉を、子供をあやすように背中に手をまわして、
トントン…と優しく叩き続けた。
「ありがとう。秀吉さん。沢山心配かけちゃった。
今日はあやまらせて?ごめんなさい」
その声を聞くと、漸く秀吉が口を開く。
「愛…本当だ。
火に飛び込んだと聞いた上に、運ばれてきたお前はくったりしてて
生気もなくて…本当に生きた心地がしなかったんだぞ」
そう言うと、抱きしめていた腕を緩めて座り直す。
「やっと秀吉さんの顔が見えた」
愛が微笑むと、
「お前の笑顔がもう一生見られないのかと思ったぞ…」
そう言いながら、愛の頭を優しく撫でる。
(今日はみんなに撫でられるな…)
「家康、もう愛は大丈夫なんだな?」
『えぇ。あとは目が醒めるのを待っているだけでしたから。
火傷はあとひと月程かかりそうですが、傷は消えると思いますよ』
「そうか。良かったな愛。
家康のおかげだ。本当に良く面倒を見てくれた」
愛はその言葉に、
「うん。家康には本当に感謝してる。何度お礼を言っても足りないよ」
と家康を見ると、家康はスッと目をそらし、目元を染める。
「そうだ愛…」
秀吉が顔色を曇らせて続ける。
「三成が…」
「三成くん?どうしたの?」
「今回の事を、自分のせいだと、相当責めている。
もしお前の意識が戻らないときは、腹を切って詫びるとまで信長様に願い出た」
愛もだが、家康も初耳の話に驚いた。
「え?なんで?三成くんは何にも悪くないよ!
私が勝手に…」
愛の言葉を遮るように秀吉は首を振る。
「あいつの事を信頼しきっていた愛を、
裏切ってしまったという思いなのかもしれない。
俺も、三成のあんな部分を初めて見た」
『だから…』
え?と愛と秀吉が振り返る。