第5章 恋の試練場 中編
家康は諦めたように、愛の広げた腕に中に身体を重ねる。
愛は漸く辿り着いた家康を精一杯ギュッと閉じ込めて、
「本当にありがとう。助けてくれて…
私、家康の事、ずっと冷たい人で嫌われてるって誤解してた…。
でも、こんなにあったかかったんだね」
(なにこの状況で、そんな可愛いこと言ってんの!)
家康は、愛の言葉が素直に嬉しかった。
香袋を一緒に作ったあの日、少しは近づけた気がしていたが、
今、こうして愛は完全に自分への誤解を解いてくれた。
その事が、こんなに嬉しいなんて…
家康は愛の背中に回していた腕に優しく力を込めた。
『もう無茶しないでよ。心臓がいくつあっても足りない…』
そう愛の耳元で言うと、抱きしめたまま頭も撫でる。
「い、家康…」
自分で抱きしめたはずが、逆に抱きしめられる形になって、
今更恥ずかしさが込み上げてくる。
更に囁くような声が耳元でして、背中が甘くぞわりと痺れた。
(ど、どうしよう…心臓の音伝わっちゃう…)
そう思うと同時に、家康の身体がふわりと離れた。
(助かった…)
『ねぇ、自分で呼んでおいて、そんなに照れないでくれる?
こっちが恥ずかしくなる…』
顔を真っ赤に染め上げた愛に、家康が言う。
「ご、ごめん…」
何となく気まづい雰囲気が漂ったところに、
バタバタバタ…
外の廊下が足音で慌ただしくなる。
『さ、これから騒がしくなるよ…』
家康はそう愛に告げると、
愛も眉尻を下げて微笑み、
「うん」と頷いた。