第5章 恋の試練場 中編
三成は自分より先に愛に謝られ、目を丸くした。
「愛様…謝るのは、私の方です。
一緒にお連れしておきながら、お守り出来ませんでした…」
見たこともない三成の悲痛な顔に、愛は顔をゆっくり振る。
「三成くんはいつも私を笑顔にしてくれたのに、
私…三成くんにそんな顔させて…ごめんね」
愛の目には溢れそうな涙が溜まっている。
「愛様…」
三成が愛の目元を指で拭う。
『ちょっと…。俺の事忘れてないよね?』
家康が不機嫌に言う。
三成は驚いて、
「家康様のことを忘れるはずないじゃないですか!」
と、きょとんとした顔で言う。
「愛様、愛様をここまで運んでくれたのは、家康様と政宗様です。
それから、今目が醒めるまで、家康さまは片時も愛様から離れることなく
治療を続けて下さいました」
三成の言葉に愛は驚き、
「家康、ごめんね。お仕事…大丈夫だった?忙しいのに…」
と、身体を起こそうとする。
『寝てなって。別に…これだって仕事だし…。
あんたが早く目覚めないと、
あの人たちが何時までもお通夜みたいな顔してて迷惑だし』
と、バツが悪そうに顔を背けながら言う。
「三成くん手伝って…」
身体を起こしたそうな愛に、三成は手を添える。
褥の上に漸く座れた愛は一息つき、
「身体中痛いなぁ」
と笑う。
「ずっと寝てましたからね。
そうだ、私は、急ぎ皆様に愛様が目を覚まされたことをお伝えしてきます。
すぐ戻りますから」
三成が思い出したように告げる。
『うん。お願い』
家康が声をかける。
部屋を出る際、三成は家康に向かって
「家康様、真っ先にお知らせくださり、ありがとうございました」
そう頭を下げ出て行った。
三成が出て行くと、
「家康…」
愛が家康の名前を呼んで、手を広げる。
一瞬面食らったが、その意味を把握する。
『何それ…馬鹿じゃないの…』
照れて目を逸らしている家康の名前を、愛はもう一度呼ぶ。
「家康?」
『わかった…』
そう言うと家康は愛の褥に近づく。
「もっとこっち来て?届かない…」