第5章 恋の試練場 中編
『愛、わかる?』
少し焦った声で家康が呼びかける。
「いえ…やす?」
『そうだよ、わかる?!』
「どうしたの…?わたし…」
(大丈夫だ。しっかり反応してる)
『よかった…』
そう言うと、愛の頭をそっと抱きしめる。
(あ…白檀…)
愛は、家康の懐で香る、香袋だろうと思った。
家康はさっきよりも優しい声で、
『愛覚えてない?火事の中飛び込んだでしょ?』
そう言いながら、再び頭を撫でる。
「火事…。あ!」
そういうと、抱きしめられている家康の腕をガシっと掴んで、
「家康!男の子は?!」
真剣な目で問う。
『大丈夫。愛のおかげで、どこも怪我してなかった。
お店は…全焼しちゃったけど…』
少し辛そうに話す。
(いずれバレることだから…)
「そっか…でも、生きててよかった、あの子」
そういうと、ふっと息を吐く。
そして、褥の上に起き上がろうとするが、力が入らない。
起きなくていいと、家康が制止しながら、
『ねぇ、愛。俺は、あんたが生きててくれて本当に良かった』
真剣な眼差しで愛に言う。
「え?」
と驚く愛。
『はぁ…。あんた、知らないかもしれないけど、
3日も目を覚まさなかったんだから。
みんな凄く心配してる。特に、みつな…』
言いかけた時に、勢いよく襖が開く。
「愛様!!」
肩で息をしながら名前を呼ぶ姿は、どこからか、駆けてきただろうことがわかる。
「三成くん…」
三成は家康が目に入っていないかのように、横たわる愛をギュッと抱きしめる。
『ちょっと三成。目が覚めたばっかり何だから』
家康が咎める。
「これは…失礼致しました…。
愛様…本当に…良かった…」
まだ、抱きしめたままそう言うと、誰にも気づかれない三成の涙が一つ
愛の褥を濡らした。
漸く三成から解放されると、愛の視界に三成の顔が見えた。
(目が赤い…心配かけちゃった…)
「三成くん、ごめんなさい。勝手なことして心配かけて…」