第5章 恋の試練場 中編
『別に、あんたのせいじゃないでしょ…』
(やっぱりそう思ってるんだ)
そう言って三成を見ると、まだ頭を下げている。
『はぁ…そういうの、めんどくさい。もう頭上げ…』
"もう頭上げなよ"
そう言おうとした時に、三成の肩が小刻みに震えている事に気づく。
(泣いて…るのか?)
家康はそれ以上声をかけられず、だまって三成の肩に手をやった。
(普段なら考えられないな…)
自分の行動に、ふっ…と声もなく笑ってしまう。
その手の温もりに驚いた三成が顔を上げる。
涙こそ出てはいないが、目を少し赤くした三成が家康を見る。
「家康様は本当にいつもお優しいですね。
私も見習いたいものです」
そう言った三成の顔は、泣きたいのに無理矢理笑っているのがわかるくらい
複雑な表情をしていた。
『あんたの方がよっぽど…』
(さすがに優しいなんて言うのは癪だな)
『はぁ…まぁ、目覚ましたらすぐ呼ぶから、安心して待ってなよ。
三成がそんな顔してても、何にも変わらないから。
愛が目を覚ました時に、そんな怖い顔で会いに来ないでよ』
家康の言葉に驚いた顔で三成は
「え?私はそんなに怖い顔ですか?」
と、自分の顔をペタペタ触りだした。
(やっぱり天然は健在なのか…)
『兎に角、もう少し待ったら目を覚ますと思うから』
そう言うと、三成はまた険しい表情に戻り
「宜しくお願い致します」
と頭を下げ、部屋を出た。
三成が出て行くと、家康は愛に向き直り、
『愛、早く目覚まさないと、
三成笑う事忘れちゃいそうだよ…
愛…』
そう言いながら、三成がやっていたようにゆっくり髪を撫でた。
「ん…」
(え?今…)
閉じたままの目元が動き、反応したように見えた。
『愛?!』
家康は名前を何度も呼びながら、今度は頬を触る。
「んん…」
きつく目に力が入ったと思うと、愛の瞼がゆっくり開く。
『誰か!』
襖を開けて叫ぶと、家臣が飛んでくる。
『今出て行ったばかりの三成を呼び戻して!』
そう言われた家臣は
「はっ!」と小走りに立ち去る。