第5章 恋の試練場 中編
家康の御殿についた二人は、ゆっくりと愛を家康の部屋へと運んだ。
『どうなんだ?』
政宗が苦しそうな顔で聞くと、家康は
「わからない」
と、答える。
「煙を結構吸っていると思う。まずは、身体拭いて着替えさせる」
そう言うと、女中が用意した桶の湯と手拭いで顔から拭っていく。
愛の身体は全身煤にまみれ、ところどころ火傷もしていた。
『この火傷、治るか?』
政宗が心配そうに訊く。
「火傷の傷は深くないから消えると思う。まずは目を覚まさないことには…」
普段の二人とは違い、軽口も嫌味も出てこない会話が続く。
そこへ、三成からの知らせで駆けつけた秀吉が現れる。
「おい、どうなってる!」
肩で息をしながら秀吉が眉を吊り上げ言う。
「静かにしてください。今、身体を綺麗にするところです」
家康が至って冷静に言う。
そこへ女中が新しい襦袢と寝着をもって来る。
「おい、まさかお前が着替えさせるのか?」
秀吉が心配そうな、どこか怒りのこもった声で言った。
「当たり前でしょ。どこに火傷負ってるかも確認しなきゃだし、
この状態の身体、素人の女中には任せられない。
心配なら手伝って下さい」
至極真っ当な事を家康に言われ、秀吉は小さな声で
「そうだな…」と言うと、汚れた着物を丁寧に脱がせていった。
『俺にもなんかさせろ』
政宗が家康に言う。
「あんたは、自分の火傷にこれ塗っといて」
そう言うと、傍の軟膏を差し出す。
「早く治してもらわないと、愛が目覚めた時に心を痛めるでしょ」
『こんなのはすぐ治る』と言う政宗に
「政宗さんは、愛が目覚めた時に真っ先にあんたの美味しいご飯作って貰わないと。
そんなとこに火傷してたら、頼めない」
燃える柱を素手で避けた時に、右手の手の甲に火傷を負っていた。
『わかったよ』
そう言うと、素直に治療をする。
『おい、秀吉、三成の方はどうなってる』
政宗が軟膏を塗りながら秀吉に聞いた。
「お前たちが追ってた浪人は三成が捕まえた。少々手荒すぎるが…
光秀が一緒に城へ連れて行ってるから…想像するだけでも恐ろしいな」
家康は着替えの手を止め、一瞬顔がボコボコだった犯人の姿を思い出し、
その時三成はどんな顔をするのか…全く想像ができなかった。