第5章 恋の試練場 中編
「それは聞きづてならない話ですね。
どの様ないでたちの者なのでしょうか」
三成は二人に詳しく話を聞いた。
一軒は本当に火をつけられ小火騒ぎになったとまでいう。
愛と一緒に城下を歩きながらも、
その良からぬ者たちを探す事を約束した。
三成と離れ、先に蕎麦屋の方向に向かっていた愛は、
何か焦げ臭い匂いを嗅ぎ分けていた。
(何処かで焼き物してるのかな?)
そう思い角を曲がると、そこに見えたのは諍いをしている声と、
煙の立ち上る一軒の店だ。
(え?煙が上がってるの、お蕎麦屋さんの近く…?!)
愛はその現場に向かって走り出す。
着く頃には、煙だけだった火事は、しっかり炎があがり、
その側では、男が数人言い争いをしていた。
『お前らが言うこと聞かねぇからだぞ!』
「いい加減にしろ!そんな事言ってる場合か!」
『おい、水もってこい!!』
それぞれが、大声を上げている中、取り乱している一人の女性が見えた。
(女将さん!)
愛はなりふり構わず駆け寄る。
「女将さん!どうしたんですか!!」
燃え盛る店内に駆け出そうとしている。
『倅が!倅がまだ中にいるんです!!誰か…』
(倅って…あの子?!)
愛の脳裏にはついさっき、ぶつかって泣いていた男の子の顔が浮かぶ。
女将さんは、周りの人々に押さえつけられ、声を張り上げている。
「今いっちゃあんたも危ないぞ!」
『息子がいるんです!!行かせて!!!』
愛は周囲を見渡す。
すると、水の桶を近所の人が持ち寄っているのが目に入った。
「それ、貸してください!!」
愛は水桶を奪うように取り、躊躇いもなく自分にかける。
三杯程の桶空にすると、燃える店内に駆け込んで行った。
誰も止める間のない、一瞬の出来事だった。
「僕?どこにいるの?返事して!!」
瓦礫が上から落ちてくる場所もある。
その中を声を張り上げて叫ぶ。
「どこにいるの??返事してーー!!」
すると、調理場の入り口付近で泣き声をあげる子供が見えた。
(あそこだ!)
近づこうとすると、上から瓦礫が落ちる。
(木造だから火の手が早い!!)
想像よりも火の回りが早かったが、どうにか子供の側までたどり着く。
「大丈夫だよ!もう大丈夫。お母さんとこ行こう!」