第5章 恋の試練場 中編
『愛様?愛様!』
ふと気づくと三成が心配そうに顔を覗き込んでいた。
「な、なに?!」
愛は、先ほどの反物屋の主人の言葉を脳内で反芻して、
一人で照れたり、首を振ったりと、百面相をしていた。
『どうかされましたか?ずっと呼んでいたのですが…』
三成にそう言われ、愛はハッとして
「ご、ごめん、何だっけ?」
と、慌てて言う。
『お蕎麦屋さん、寄ってみますか?』
先程の親子のお店の事を思い出し、
「そうだね、行ってみたい!」
と、勢いよく三成に言う。
『ふふふ…照れてらっしゃるんですか?
あまり気になさらないで下さいね。
でも、愛様が素敵なのは、私が一番知っていますけどね』
そう言うと、顔を赤くしている愛を見て微笑む。
「 も、もう三成くんもあんな事サラッと言うから…
私の方が三成くんには似合わないでしょ…」
そう言って前を向く。
「あ…あれ、家康と政宗じゃない?」
その目線の先には、城下の見廻りをしているらしき、
家康と政宗の姿があった。周りをキョロキョロと、何かを探しているようだ。
『本当ですね。何か探されてるのでしょうか』
三成と近づいて、声をかける。
『政宗様、家康様、如何されましたか?』
そう声をかけられた二人は、手をつないで目の前にいる愛と三成を見る。
「こっちが仕事してるってのに、いい気なもんだね…」
家康はそう言うが、政宗は
『三成ちょうど良いとこに。ちょっといいか』
と、愛をチラっと見て声をかける。
『愛様、すみません、先程のお蕎麦やさんに先に向かっていて頂けますか?
すぐに追いかけますので』
そう申し訳なさそうに言う三成をみて、すぐに仕事の話だと察した愛は、
「わかった!先に行ってるね!」
と、手を離す。
『悪いな』と政宗が言えば、
愛は笑顔で首を振り、
「じゃあ後で…」と歩き出す。
その姿に何か胸騒ぎを覚えたが、すぐに三成に向き直る。
真面目な面持ちの家康が
『変な浪人風なのを探してる。二人組なんだけど、
俺たちが見つける前に、店主に因縁つけて、店に火をつけると脅してたんだ』
政宗も、
『食べ物屋で無礼を働いては、そう言って脅して金を払わず出て行くらしい』
と言う。