第5章 恋の試練場 中編
三成は笑顔で女将に声をかける。
『愛様が大丈夫と仰ってますから…顔を上げてください』
そう言うと愛を見る。
「遊びたい盛りの男の子ですから、大目に見てあげて下さい」
愛は笑顔で男の子の頭を撫でながら言う。
目線をもう一度子供に合わせると、
「これからは、お母さんの言うことちゃんと聞けるよね?」
そう笑顔で話しかけた。
泣き止んだ子供は、大きく振りかぶり、
『うん!』と言う。
「 いい子いい子!」
そう言うと、立ち上がり、
「お蕎麦屋さんですか?お出汁のいい香りがしますね」
と、女将に話しかける。
『ここのお蕎麦はとっても美味しいですよ、愛さま』
三成が言う。
『主人が建てた蕎麦屋ですが、病気で亡くなってからは私がついでおります。
おかげさまで、皆様に助けられてなんとかやっておりますが、
どうしても子供まで手が回らず…本当にご迷惑をおかけしました』
と、もう一度深いお辞儀をする。
「お母さん、お店忙しいでしょ、もう私たちは大丈夫だから、戻ってください。
今お昼時ですものね、さぁ」
愛が促すと、女将は申し訳なさそうに
『ありがとうございます』と店に戻っていった。
『愛様、本当にお怪我はありませんか?』
女将がいなくなると、途端に三成が心配そうな顔をする。
『私がついていながら申し訳ありませんでした』
愛は慌てて、
「相手は子供だよ?あの子に怪我がなくて良かったよ!」
と、笑ってみせる。
『愛様は本当にお優しいですね。
ここのお蕎麦は美味しいと本当に評判ですから、
帰りに寄ってみましょうか。その頃にはきっと店内も落ち着いてますでしょうから』
その言葉に、愛は嬉しそうに頷き、
でも心配そうに、
「三成くん、お蕎麦…ちゃんと食べれる?」
と訊いた。
言葉の真意がわからない三成は、
きょとんと首を傾げるのだった。