第5章 恋の試練場 中編
半ば、三成に押し切られる形で、
愛は出かける支度をしていた。
(あんなに喜んでくれるなんて、作った甲斐があったなぁ)
自然に顔が綻ぶ。
三成の羽織に合わせて、自分の着物を選ぶ。
先日、家康が手伝ってくれた香袋と、出来上がったばかりの巾着たちを
丁寧に風呂敷に包んだ。
『愛様、ご用意できましたか?』
三成から声がかかり、襖を開ける。
「お待たせしました。いこっか」
愛の笑顔を見て、三成も笑う。
『はい、行きましょう』
二人は門を出るまで、またもや女中たちと城のもの、
最後は門番の声がけに対応することになるのだった。
城下は今日も賑わっており、沢山の人々が往来している。
改めて、人の多さに愛が感心していると、
何かがドンとぶつかった。
「きゃ!」
愛にぶつかった犯人は、
尻もちをついて今にも泣き出しそうな顔をしている。
『うぅ…うわぁーん』
『愛様大丈夫ですか?!』
三成は愛を心配するが、その頃には愛はしゃがんで
ヒクヒクと泣く男の子をあやしていた。
「ごめんね、お姉ちゃん余所見してて…
怪我はない?」
怒られると思って泣いていた子供は、愛の優しい声にびっくりしたように
『…うん。ごめんなさい…』
と、まだ少し肩を上下させる。
よしよし…頭を撫でて、
「急に出てきちゃ危ないよ?
男の子だもんね、強いよね、立てる?」
と笑顔で手を差し伸べる。
ちょうどそこへ、近くの飲食店から母親らしき女性が慌てて駆け出してきた。
『すみません!お怪我はありませんか?
こら!外に出ちゃダメって言ったでしょ?!」
と声を荒げる。
すると、泣き止んでいた男の子は、また涙をボロボロ流し出した。
「いいんですよ、私も余所見してましたし、怪我もないですから」
慌てて愛が言う。
『店が忙しいと構ってやれなくて、すぐに外に行きたがるんです…
本当にすみませんでし…石田様!』
愛にしか目の行ってなかった女性は、
一緒にいるのが三成だとわかると更に恐縮してあやまった。
『石田様、大変失礼致しました…ということは倅がぶつかったのは
愛姫様では…本当に申し訳ございません』
そう言うと深々と頭を下げる。