第5章 恋の試練場 中編
翌日、愛が朝餉を終えて、巾着を縫っていると
襖の外から声がかかった。
『愛様、いらっしゃいますか?』
「三成くん!?」
愛は慌てて襖を開ける
『ご無沙汰していました、愛様』
そう言うと、三成はにっこりと愛に笑いかけた。
「おかえりなさい!
三成くん、今朝こっちについたんじゃないの?
疲れてるんじゃない?」
三成は、首を左右に振りながら、
『馬に乗っているだけですからね。
私は疲れてませんよ。先ほど、報告に参上したら、
秀吉様から、愛様がわたくしを待っていると伺ったものですから。
どうかなさいましたか?』
少し照れながらも、嬉しそうに三成が言う。
その言葉に愛も顔を綻ばせて、
「羽織、できあがったの」
と、少し照れ臭そうに言う。
「気に入ってもらえたらいいんだけど…」
そう言いながら、丁寧に包みを解き
三成の前に広げる。
『これは…!』
三成の想像を遥かに超えた、素晴らしい出来上がりに息を呑む。
「三成くん、寸法確認したいから、一回着てみてもらってもいいかな?」
そう言いながら愛が三成に羽織を渡す。
外はまだ、冬の気配を残しているが、三成の羽織った羽織は
春が突然やってきたような色合いで、いつも笑顔の三成と相まって
本当によく似合っていた。
「うん。丈も裄も大丈夫だね。
デザ…柄はどう?あまりこういうの着ないかもだけど…」
愛が不安げに姿見を三成が映るように向けながら見上げる。
『素敵ですよ、愛様…。私がこのような物を頂いてしまってよろしいのでしょうか。
この刺繍も愛様が?』
裾を持って、愛おしげに刺繍部分を撫でる。
「 そうだよ。三成くん、あまり黄色味の着物は着ないと思ったから、
三成くんが普段着ているものにも合うようにって思って…」
そう言い終わらないうちに、三成がフワッと愛を抱きしめる。
「わぁ!」
突然のことに驚くと、
『私の事を想いながら作ってくださったんですね、ありがとうございます!
早速、反物屋のご主人に見せに行きましょう!』
「え、でも、三成くん帰ってきたばっかり…」
『今日は秀吉様が、この後は暇をくれましたから、大丈夫です。
私が今日お見せしたいのです』