第5章 恋の試練場 中編
家康はわかるが、なぜ政宗まで…と不思議に思っていると、
まさにその政宗の声がした。
『俺たちが悔しがるって?』
そう言いながら襖が開き、二人の姿が見えた。
「どうしたの?二人とも…」
愛が目を丸くして聞くと、
『城下の見回り行こうとしたら、政宗さんがどうしても寄るって…』
家康の説明を遮るように、
『お前が死んでないか見にきてやったんだよ。ずっと見てねぇからな』
政宗が、バツが悪そうに言う。
「死んでるって…なんでそうなるの?」
『素直に会いに来たって言えば…』
家康が口を挟む。
二人のよくわからないやり取りを暫く無言で見ていた愛は、
「二人で城下の見廻りってなんかあったの?」
真っ当な疑問を投げかける。
『光秀の報告で、馬鹿な狼藉者が出回ってるというからな』
政宗が答えれば、
『あんたも、すぐなんかに巻き込まれるんだから、
一人でふらふらしないようにして』
と、家康。
「わ、わかった。二人とも気をつけてね?」
と心配そうに見上げる。
『宜しく頼んだぞ』
と秀吉に言われれば、
『じゃ、行ってきます』
と家康が歩き出す。
『お、おい待てよ!』
と政宗が慌てて追いかけていった。
「なんだったの?」
と、首を傾げながら秀吉に聞くが、
色々とわかっている秀吉は、説明に困ったあげく、
『さぁな…』と呟くに止まった。
「あ、そうだ、それで、三成くんはいつ帰ってくる?」
と、騒ぎの前の話題に戻した愛に、
『そうだったな、あいつは今日の昼には向こうを立つから、
明日の朝には到着すると思うぞ』
と、愛に笑顔を向ける。
『三成、喜ぶだろうな。
なんせ、あいつに献上品が送られることも滅多にないしな』
秀吉は、まるで自分のことのように喜んでいる声で言う。
「そっか、じゃぁ明日は三成くんも疲れてるだろうから、
明後日以降に三成くんの空いてる時に城下に連れて行ってもらうね!」
と、三成を気遣いながらも嬉しそうに言う愛が、秀吉には眩しくもあり、
三成の帰りを今かと待ち望む気持ちに、少し嫉妬していた。
『今日はこの後何してるんだ?』
秀吉が話題を変える。
「うーん、まだ端切れが残ってるから、
今度は小物入れや巾着を作ろうかな!」
楽しそうに愛が言った。