第5章 恋の試練場 中編
「できたーー!」
部屋に篭って数日。愛は漸く三成の羽織を完成させていた。
肩の方から裾に向かって、紫から徐々に薄黄色のグラデーションになるように仕立てた後で、
腰から裾にかけては、三成がいつも好んで選んでいる深い紫と、
グラデーションにあうように選ばれた、濃いめの水色の糸とを上手く織り交ぜて
曲線を描く刺繍を施した。
あまりこの時代では見ない作りにはなったが、
難しい反物の良さを自分なりに最大限引き出したつもりでいる。
(はやく三成くんかえってこないかな…そうだ、秀吉さんにいつ帰って来るか聞いてみよう)
そう思いたつや否や、勢いよく襖を開けると、
そこには、今まさに会いに行こうとした秀吉が、
茶菓子のお盆を持って立っていた。
「わっ!!」
『おっと…!』
思いがけずぶつかりそうになり、二人で仰け反る。
「ど、どうしたんですか、秀吉さん!」
『お前こそなんで飛び出してくるんだ…』
少しの間をとって落ち着くと、
『お前が、引きこもって精を出しているというから、
息抜きに茶でも、と思ったんだ』
「あ、ありがとう。
私も、秀吉さんに用があって探しに行くとこだった」
二人ともお互いに会おうとしていたことがおかしくなり、
自然に笑いが起こった。
「どうぞ、入ってください」
愛が秀吉を招き入れると、
出来たばかりの羽織が秀吉の目に入る。
「お茶入れますね」
そう言うと愛は二人分のお茶を用意し始めた。
『これは、三成のか?』
秀吉が大層感心したように、まじまじと仕立て具合や刺繍を見る。
「えへへ、そうなの。
出来上がったから、秀吉さんに三成くんいつ帰ってくるか聞こうと思って…」
そういいながら、お茶を出す。
「どうぞ」
『あ、あぁありがとう。
それにしても、想像以上だな、愛の腕前は…。
俺のも早く作って欲しくなった。がんばったな』
そう言うと、愛の頭を優しく撫でる。
(久しぶりだから照れる…)
頬を赧らめながら、ありがとうと言う愛を、
秀吉は愛おしそうに眺めていた。
『三成が一番手なのが、これほど悔しいと思ったことはないな…』
そう口をついてしまう。
「え?」
驚く愛に、
『俺が思うんだから、家康と政宗はもっと悔しがるぞ』
と、顔のすべてを綻ばせて笑う。