第5章 恋の試練場 中編
『ん?家康、お前なんかいい匂いしないか?
おいおい、まさか真昼間から女…』
ニヤついて言う政宗の言葉を遮って、
「愛と一緒にいただけですよ…」
(俺も中々嫌な言い方…)
『おまっ…』
家康を揶揄おうとした政宗は、逆に言葉を失った。
『でも、愛こんな香り身につけてたか?』
怪訝そうな顔で秀吉が言うと、
「別に、愛と一緒にいたってだけで、愛の香りだとは言ってませんよ…」
と、面倒くさそうに言いながら、愛が選んだ香袋を見せた。
「これ作るの手伝ってただけ」
政宗が取ろうとするより早く、さっと懐にしまう。
『く…見せろよ!』
家康は完全に政宗を無視している。
『へぇ、愛はそんな事してるのか』
秀吉はと言えば、嬉しそうに顔を綻ばしている。
「なんで、秀吉さんが嬉しそうな顔してんですか?」
家康が訊くと
『愛が入れ込める事があるのは、俺だって嬉しいからな』
ウンウンと嬉しそうに頷きながら言う。
『俺は面白くねぇな…。
なに勝手に楽しみ見つけてんだよ』
政宗は不貞腐れ気味に呟く。
「だいたい、なんであんたち俺の御殿に押しかけてきてんですか。
政宗さんに関しては、勝手に台所上がり込んで飯作ってるし…」
家康が愛と別れて御殿に帰ると、
家臣から秀吉と政宗が待っていると告げられた。
なにかあったのかと急げば、勝手に夕餉の用意がされていたのだ。
『他の奴らは、いつ戻ってくるかわかんねぇし、
愛とも飯食えねぇなら城に居なくてもいいだろ』
政宗が言う。
「だからって俺の御殿にしなくても…」
家康の言葉を遮り政宗は
『だめだ。俺や秀吉のところじゃ、
お前がめんどくさがって、来ない』
図星を刺された家康は深いため息をついて諦めた。
『まぁ、いいじゃないか、家康。
政宗だって愛といれなくて寂しいんだ。
付き合ってやろうじゃないか』
嫌味なく言う秀吉に、政宗は、
『そんなんじゃねぇ…』
と小さい声で言う。
「そういえば、愛は明日城下の反物屋に行くみたいですよ」
それを聞くと、政宗は誰にも気づかれないようにニヤリと口の端を上げたのだった。