第5章 恋の試練場 中編
翌日、愛は午前中から三成の羽織を作り始めた。
香袋を届けに行こうかと思ったが、三成が帰ってくるまでに仕上げて、
一緒に反物屋に出かけた方がいいと思ったのだ。
集中すると、時間が経つのも気づかない。
愛は自分の考えていた物が、どんどん手元で形になる事が
楽しくて仕方なかった。
ところで、家康に愛が城下に行くと聞いていた政宗は、
城からでる所から声をかけようと企んでいたが、
全く部屋から出る気配のないことに苛立っていた。
何度確かめに来ても、部屋にいる様子がある。
遂には、夕餉まで部屋に運ばれているのを確認した。
「家康が嘘を言うとは思えんが…
明日にしたのか?」
怪訝そうに政宗は、愛の部屋の前から立ち去った。
翌日も、愛は部屋から出ていなさそうだ。
広間で武将たちが顔を合わせても、誰も愛を見たものはいなかった。
『もういい加減、愛に振り回されるの止めたらどうです?
愛だって、俺らに構われるためにいる訳じゃないんですから』
いつまでも機嫌の悪い政宗に、家康が言う。
『そんなんじゃねぇよ…。』
(俺はまだ愛の笑顔自分で見れてないだけだ…)
『大方、愛の笑顔でも見れずに焦っているんだろ?』
そう言いながら広間に入ってきたのは光秀。
政宗はその通りなため、返す言葉を探していた。
『クッ…図星か』
光秀はそう人の悪そうに笑う。
「焦ることなどない。時間はたっぷりある。」
信長からもそう言われ、更に押し黙ってしまった。
『そんなに気になるなら、部屋にでもいけばいいだろ。
別に逢うことを禁じられてるわけじゃないんだから』
秀吉が尤もなことを言う。
「うるせぇ…」
力なく答えると、政宗がそれ以上口を開くことはなかった。
『光秀、報告しろ』
そう信長が言うと、「はっ」と前に進む。
『上杉の偵察が、安土に紛れていると噂が広がっていて、
それに便乗して、雑魚な浪人どもがたまに城下で暴れているという話があります』
光秀の報告に、秀吉は顔をしかめる。
「どういう事だ?」