第4章 恋の試練場
朝餉を食べ終え、三成を見送ると、
愛は早速羽織作りを始めた。
久しぶりに、カバンの中からノートと鉛筆を取り出し、
デザインのデッサンをする。
(やっぱり楽しい…)
愛は夢中で何パターンものデザインを書き上げ、
その度に三成が着た時のイメージを湧かせる。
(黄色みが入る着物を着ているのは見た事が無いな…
普段の着物に合わせるなら…)
どれだけ集中していたのか、気づくとお日様は高く上がり、
城内からは昼餉を思わせる匂いが立ち込め出していた。
それでも、愛は夢中でデザインを考える。
最終的な仕上がりを左右する、刺繍を施したいと、
何枚も何枚も書き重ねていた。
『愛様、昼餉のご用意をして宜しいでしょうか』
外から女中に声がかかる。
(もうそんな時間か…)
「はい。ありがとうございます。宜しくお願いします」
そう声をかけると、襖が開く。
そちらに目を向けると、何故かそこには光秀が立っていた。
『なんだか久しぶりだな、愛。
どうした、そんなに間抜けな顔をして』
そう言うと、後ろにいる女中から昼餉の膳を受け取り中に入る。
「どうしたんですか?
間抜けな顔って…そりゃ、驚きますよ…」
光秀の姿に驚く愛を尻目に、
光秀は2人分の膳を置いていく。
『三成が、どうしても仕事で外に出ているんだ。
一人の食事は味気ないだろ?』
そういうと、いつもの意地悪な顔を引っ込め、
優しく口元を綻ばせる光秀が言う。
(こんな柔らかい顔もするんだ…)
いつもとの違いに、愛はそわそわしてしまう。
「お気遣い…ありがとうございます。
でも、広間に行かないのは私の我儘ですから…
気にしないで下さいね、お忙しいでしょうし…」
そう言う愛に、光秀は先程からの表情を崩さず、
『気にするな。
俺があいつらのしょぼくれた顔を見ながら食べるのに飽きただけだ』
そう言って笑う声は、愛の知っている人の悪そうなものではなく、
本当に寛いでいるような、自然な笑いだった。
「光秀さんも…」
名前を呼ばれ、愛の顔を正面から見ると、
「そんな笑い方するんですね…
その方が、とっても素敵ですよ?」