第4章 恋の試練場
次の日、愛は何時もより早く目覚めた。
褥の上に起き上がり、昨日の三成の言葉を一つ一つ思い出していた。
(みんなの事、誤解してるのかな…)
確かに…と思う。
秀吉の耳にタコが出来そうな注意も、よくよく思い返せば、
自分を守る事しかいっていない。
政宗のキスは困ったけれど、いつも自分に作ってくれる料理は愛情が溢れていた。
(きな粉餅、美味しかったな。作り方、教えてもらおうかな)
光秀の真意はわからないが、本当に嫌な事は言われていない気がする。
家康は…天邪鬼という性格を受け入れたら、
その殆どが自分を心配してくれている言葉と捉えることも出来なくない。
(もっと私が前向きに考えたら、何て事はないのかな)
三成は、安土城に欠かせない存在になっていると言った。
(そうなら嬉しいけど…)
褥を出て、着替えをする。
朝餉まではまだだいぶ時間があるだろうと、散歩をしてみようと思った。
外に出れば、現代にはない広い空が透き通っていた。
(下向いてたら、この空が勿体無いな)
何となく自然にそう思った。
もし、このまま自分のいた時代に帰れなければ、
ここで生きていくしか無い。
信長が此処に居ろと言わなかったら、今自分はどうなっているのだろう。
佐助と一緒に、上杉謙信のところにいるのだろうか。
でも、今自分はここにいる。
だったら、ここで精一杯生きる事を考えないといけない。
「よし!」
と、一つ気合を入れて、笑顔になってみた。
すると、後ろから声がかかる。
『朝からなんの気合い入れたんだ?』
愛が振り向くと、そこには秀吉がいた。
少しの気まずさを抱えつつも、口を開く。
「秀吉さん…おはようございます。
早く目が覚めてしまったので、散歩しようと思って…」
また何か注意されるのかと覚悟をすると
『そうか。散歩には似合わない掛け声だったな』
と、秀吉が目尻を下げて笑う。
「え…」
自分の予想と違う秀吉の反応に戸惑いながら、
なんて言おう…と思っていると、
『俺は、昨日うっかり飲んだ酒のせいで、ちょっと頭が冴えなくてな。
外の風に当たりたくて出てきたら、愛がいたんだ』
そう笑いながら、秀吉は愛の方に歩み寄る。
「そっか…」
いつもと違う様子に戸惑いながらも、
ゆっくり近く秀吉をみていた。