第4章 恋の試練場
政宗は、今朝の信長の宣言通り広間に食事に現れなかった愛の事を考えていた。
いや、政宗だけではない。
この広間にいるもの全てが何かしら愛を思っている。
今朝までとは違い、夕餉の席は三成もいない事も拍車をかけ、
誰も口を開かない、通夜のようになっていた。
「貴様ら、愛がいないと、こんなにも大人しいか」
嘲笑気味に信長が言うが、それに意見するものは1人もいない。
その様子に、半ば呆れ気味で、
「愛の夕餉から三成が戻れば報告させる」と信長が言うが、
みな神妙な面持ちを崩さない。
『あの間抜け面が見れないだけで、こうも空気が変わるとはな』
沈黙を破ったのは光秀だ。
自らを嘲笑うような、諦めのような笑いを添えて。
「みんな…振り回されすぎ。元々居なかったんだから、元に戻ったようなもんでしょ…」
家康は、まるで自分に言い聞かせるように呟く。
『おい、家康。まるで愛が消えて無くなったような言い方をするな!』
秀吉は家康を咎めたかっただけだが、自ら発した【消えて無くなる】という言葉に、
なんとも言えない胸の騒めきを覚えた。
「やっぱり気に食わねぇな」
そう言うと、箸を乱暴に置き政宗が立ち上がる。
『おい、どこ行くんだ』
慌てて秀吉が制しようとするが、政宗は何も聞こえないかのように広間を立ち去っていく。
『おい!』
声を荒げる秀吉に向かって、
「捨て置け」
と、信長の声がかかる。
『ああなったら、誰の言うこともきかないでしょ。あの人』
1人黙々と箸を進める家康が、誰とも目を合わせないまま言う。
光秀は酒を手酌しながら、揺れる水面を眺め、
何を思っているのか悟られないように、ふっと笑った。
「今日からこんなに気が立っていたら、明日以降思いやられるな。
余計愛に嫌われるぞ、秀吉。今日くらい酒に付き合え」
そう言うと、杯を渡す。それを無言で一気に飲み干す秀吉を見て、
信長は、
「おい…あまり無理するな。お前の酒癖に付き合いたくはないぞ」と
呟くような声で言い、
家康は
『めんどくさ…』と、さらに小さい声で言った。