第11章 9:ほんまるのはなし
考えないというのは、楽だ。
楽だが、自由はない。
手足を得る前、自分の居場所を選べなかったものだから、
人の身を得ても同じだろうと、侮っていたのだ。
主人を飾ればいい。
主人の敵を切ればいい。
それが道具の本懐ならば、
それさえこなしていれば愛される。
主人を愛してさえいれば、捨てられない。
実情は、全くの逆だったが。
「あ、そういうの必要ないから」
見目と甘い言葉で歓心を買おうとした俺を、
こんな言葉でばっさり切り捨てるくらい、
主は「愛されたい」という欲求を持たなかった。
自分のノリと合わないのなら、他の本丸を紹介する。
そんな事まで言い切ってみせた。
基本、自らの本丸の刀剣に、
審神者は少なからず執着心を持つ。
好かれたい、離れがたいと願う。
審神者に限らず、優れた道具の持ち主は、
気に入りを手元に置きたがる。
見習いが本丸を奪う事件で、
元々の審神者が怒り狂うのも、そのためだ。
しかし、おかしい。ここではそれが無かった。
どうすれば良いのか分からず、戸惑ってしまう程に、
主は刀剣男士に対して、自由を許した。
失敗すれば管理不行き届きで自分の首が飛ぶだけだ。
そう嘯いて、出陣の指揮さえ刀剣に任せることもあった。