第9章 7:ほんまるのはなし B
空気が凍る。
「貴方が、それを聞きますか」
「ええ。私だから、聞きたいの」
「ならば覚えがあるかと思いますが」
愛とやらを振るわれ、
そこから脱してきた貴方なら。
言外にそう滲ませれば、少女は静かに、
やや草臥れた微笑を浮かべる。
やっぱりか、とでも言いたげに。
呑みそこなった茶を流し込むが、
先ほどよりも味が薄まった気がする。
暫く、間があった。
「あの人たちは、恋してたのね」
窓の外を見て、主がつぶやく。
もう知っていた答えを復唱するような、
平坦な声音だ。
きっと、どこも見てはいない。
「ええ、恐らく俺たちではなく、
恵まれない誰かを助ける自分自身に」
そして────心底惚れぬいて、心中したんでしょう。
俺たちは花嫁を彩る、嫁入り道具として望まれた。
花嫁道具には輿入れも、まして心中なんぞ、
止められませんし、止めもしませんよ。
「難しいものだわ、本当に」
主は静かにため息をついて、続ける。