第8章 7:ほんまるのはなし
「監査が抜き打ちで来るかも」
という連絡は、
主が政府役人との面談した日のうちに通達された。
「また監査か。飽きないな」
「切国も無関係じゃないと思うよ。
俺の見立てなら、
おまえが同位体の首飛ばした所からの通報だろうし」
「どの本丸だ、加州。
……心当たりが多すぎる」
「多すぎるって……」
引き継ぎカッコカリしたとこ、と言えば、
切国は思い出したようなそうでもないような声を上げた。
夕食の席で切国とおかずをつつきながら、
取り留めもない会話を続ける。
「で、主の様子はどうだった」
「どうだったも何も、面白がってたよ。
またか! って」
「だろうな。
最初からそのつもりだったんだろう、あいつは」
「え」
切国の一言に、思わず箸を止めて彼を見た。
室内だから布こそ被っていないが、
前髪に隠れて黙々と煮物を食べる表情は窺えない。
「加州、俺に見惚れるのは勝手だが、
早く食べろ。冷めるぞ」
「いや、見惚れてないから!」
「そうか。……ご馳走様」
切国が、食器を洗いに厨へ向かう。
白米を掻き込みつつ見送る背中に
ボロ布が揺れていない。
そういえばうちの切国、最近は布着けなくなってきたな。
ぼんやりと考えつつ箸と口を動かしていたが、
食べ終わってからふと思い出す。
主がわざと監査になるよう仕向けたって、
アイツどうしてそう思ったんだろう。