第94章 今を生きる
「小狐丸さんにも聞いたぞ。主は俺達を江戸へ行かせるのが嫌なんだって。…何でだろうな?敵が強いのは解ってるけど、怪我したら手入れするだけだろ?」
「……前にね、色々あったんだ。だから主ちゃんが躊躇するのも仕方の無い事なんだよ。僕は貞ちゃんが江戸に居るかもしれないと聞いた時からこうなるのは解ってたから、半ば諦めてた。それも運命かなってさ。」
門の脇にある小さな祠に目をやって、湿っぽくてごめんねっと笑いながら俺を見る。
「謝らないで欲しいんだぞ、何があったんだ?この本丸は温かいと冷たいが極端だ。」
この気持ちをどう表したらいいんだろう。寂しい?切ない?ううん、違うんだぞ。
「…俺も知りたい。俺も皆と笑って皆と色々考えたいんだぞ。」
そう、たぶんこれは嫉妬ってやつだ。