第93章 白妙
「まぁ、そう言うわけだ。ひとつ、仲良くやろうな。」
にこにこといつもの様に笑った三日月からは、先程の鋭い気は感じられない。主がこいつからちゃんと逃げられた事と、普段通りの雰囲気に戻った事にほっとする。
「あ、あぁ。それで主から何か伝言は頼まれていないか?」
「伝言?そうさなぁ、何だったかなぁ…」
「三日月、今になって忘れた振りとは、待たれているぬしさまが可哀想ですよ。」
すまん、と笑った三日月が“く”だったな。と頷きながら俺を見る。
「く…か。の、さ、白い、ら、く??さくら‥?」
「白い、さくら……ならあれだろうなぁ?」
伝言の言葉を並び替えた三日月が大きく揺れる桜を見上げて言う。それに釣られて桜を見るが、相変わらず堀の縁でさわさわと花弁を舞わせる桜があるだけで、辺りには誰も居ない。