第92章 夜桜
「あ…ピンクになった‥」
風で揺れる桜の花が、光の灯った提灯の赤で桃色に輝く。
途端、また強く吹き抜けた風が、落ちた花弁を舞い上げ霞の様にちゃんを隠した。
「ちゃんっ!」
何と無く、どうしてか解らないけど突然不安になって、花弁の雪の中に手を伸ばす。
「ふふ、ちゃんとここに居るよ。‥大丈夫。」
僕の手を包んだ両手が温かい。きゅっと心まで掴まれた様な感覚があって、ちゃんから目が離せなくなった。
桃色の雪の中、にっこりと優しく微笑むちゃん。
「…春霞 たなびく山の桜花 見れどもあかぬ 君にもあるかな、だね。」
ん?と首を傾げるちゃんの手を引き、そのまま自分の胸に抱き止めた。