第92章 夜桜
大きな道路の先、さっき見えていた緑の脇から続く小道に入ると、突然吹いた風が地面に落ちた桜の花弁を舞い上げる。
「…これは、凄いね。」
「雪みたい‥綺麗。」
お堀を囲う様に植えられた桜は既に殆どの花が落ちて、疎らに残った花があるだけだ。だが、その桜の花弁が一面を埋めつくし、綺麗な桃色の絨毯の様に見える。
再び吹いた風に舞う花弁を追って走り出したちゃんが、嬉しそうに振り返って僕を呼んだ。
「みっちゃん!来て!まだ桜があったよ!!」
指を指した方を向けば、お堀の向こうの開けた場所が白く揺れているのが見えた。
「白い桜?」
早く早く、と戻って来たちゃんが手を引いて行く。
今日はこうして手を繋ぐ事が沢山あって嬉しいよ。小さな子供みたいにはしゃぎながら橋を渡るちゃんを見て、幸せだなぁと思った。