第99章 Bittersweet
「お持ち帰り、してもいいかな」
お持ち帰り…
その言葉の意味くらい、俺にだってわかる。
「いい?」
再び大野さんに聞かれて。
俺はコクッと頷いた。
大野さんの左手と俺の右手があいている。
俺はさっきまでケーキの箱を持っていたその右手で、大野さんの左手をきゅっと握った。
頭の中に、ケーキに添えられていたプレートの文字が浮かぶ。
「大野さん」
「ん?」
「翔を…お願いします」
俺なりに勇気を出せたと思う。
連れて帰ってください、なんて恥ずかしくて言えないから。
すぐさま大野さんが握っていた手を恋人繋ぎにした。
「今、すげぇドキドキしてる」
俺はずっとドキドキしっぱなしだけど…
大野さんにそう言ってもらえるのは素直に嬉しかった。
「まだ言ってなかったな。誕生日おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
「それに…ね?久しぶりに聞いた声がさ“大野さーん”だったからさ。すぐにでも抱きしめたかった」
「えっと、あれは…その…」
恥ずかしくてしどろもどろになっている時にはもう、頬の真横に大野さんの顔があって。
「あのさ…翔。今夜さ、日付またいでもいい?」
大野さんからの甘い耳打ちに、全身がカァッと熱くなった。
END