第96章 ワインレッド~season~
「ベーコンのカリカリ感とえのきのシャキシャキ感がたまらないんだよねぇ」
運ばれてきたえのきベーコンをモグモグ食べる翔くん。
ほら。
唇がさ、油でテカテカしてるよ。
「ん?智くん、食べないの?」
「んふふ。食べ頃になったらね」
「そっか。智くん、猫舌だもんね」
えのきベーコンを1つ取り、翔くんはフーフーと数回息を吹きかける。
そして…
「はいっ。智くんも食べよ?」
自分で食べるのかと思いきや、おいらにくれたんだ。
その優しさにジーンとした。
「あ、ありがと。ん、うまい」
「どういたしまして。小さい頃ね、弟にもそうしてあげてたの」
「へぇ。仲良しだね」
嬉しかったのに…
何だかおいらの胸はモヤモヤした。
タイミング良くなのか悪くなのか、翔くんのスマホが鳴る。
「ごめん、弟からだ。ちょっと外で電話してくるね」
「うん」
…ごめんな、翔くん。
おいら、嫉妬してる。
かずさんに、弟さん。
翔くんは必ず奪ってやるから。
電話を終えた翔くんが、席に戻ってきた。
「今日は母さんもいないし、弟も友人と会ってるみたい」
「ふふっ。そうなんだ」
「うん。何かさ、団体さんが多くて落ち着かないね」
たしかにザワザワしてて、翔くんの声が聞こえにくい。
「じゃあさ。おいらん家で飲み直す?」
「うん、行く。赤ワインも飲みたいなぁ」
そうだね。
今日もイカせてあげるからね。
赤ワインをマグカップの中に注ぐ間、それをうっとりと見ている翔くん。
おいらはそんな翔くんと、揺れるワインレッドにクラっとする。
翔くんの赤い唇…
熱い気持ち…
嫉妬で燃える心…
「好きだよ、翔…」
いつも以上に雄に目覚めたおいらは…
「翔…ワインレッドの花、綺麗に咲いたね」
翔くんの首元に吸い付き、はじめて痕をつけた。
“もしもし?かず?どうした?”
弟さんへの電話。
翔くんの第一声。
おいらは知る由もない。
END