第92章 ある日の山②
「智くん、タオルと俺のふ…うわっ」
まだ話している途中なのに、智くんが俺をお姫様抱っこした。
「さ、さ、智くんっ、濡れちゃう」
「んふふ。しょ―くんったら大胆~。濡れちゃう、だって」
「ち、ちがっ…あぅっ」
裸のままお姫様抱っこされていて…俺の真ん中の袋さんがね、ぷらぷらしちゃってて。
何か…変な感じ…。
間もなくして俺は、智くんの部屋のベッドにそっと下ろされた。
強引だったり優しかったり…そんな智くんにキュンとしてしまう。
俺に覆い被さる智くんは、さっきまで可愛くニコニコ…いや、ニヤニヤしていたのとは違う、オスな表情をしている。
「翔…風呂から出たらすぐシたいって言ったのは誰?」
智くんの手が俺の体をまさぐる。
「お、俺…です」
「なのにさ、パジャマ着る必要ある?」
言ってることはごもっともなんだけど、それには理由があるわけで…。
「え、えっと…。いつもね、パジャマのボタンを外してくれる智くんにね、ドキドキするから…」
伏せてる目や指の綺麗さに胸が高鳴るんだもん。
智くんを見ると、顔が真っ赤になっていて。
「しょ―くん、ちょっとだけ待ってて」
声色が柔らかくなった智くんは慌てて俺から離れ、ベッドの下に手を入れ始めた。
あった、あったと何かを取り出す。
「しょ―くん。早く、これ着てっ」
ブフッ…
こんなに近くにいるから投げなくてもいいのに、顔にヒットしたのは俺のパジャマだった。
再びベッドに上がってきた智くんが水分量の多い瞳をキラキラさせながら、俺を凝視している。
それね、可愛すぎるの…あなた、わかってる?
俺は智くんの願いと俺の願いを叶えるべく、パジャマに手を通した。
「んっはぁ…翔…俺のどこが…好き?」
「ぜん、ぶ…だから…さと、もっと…」
「んっ…はぁ…イ、く…」
「さと、しく…ん…あ、ん」
「…ヘックション」
翌日…
くしゃみが止まらないのは髪の毛が濡れていたせいなのか、ちょっと埃が付いていたパジャマのせいなのか。
「しょ―くん、看病してあげるね」
くしゃみだけだから、看病してもらうほどではないんだけどな。
不意におでこにちゅっとキスをされ、胸がときめく。
「か、か、看病お願いしますっ」
「んふふ」
END