第91章 初恋花火
「俺、キスしたの初めて…」
唇を離した後、櫻井くんが照れながら言う。
「僕も初めてだった…」
キスの味なんてわからない。
櫻井くんの厚い唇は柔らかくて…
とにかく顔がカァッと熱くなって…
上半身の特に肩辺りに力が入って…
もうっ、思い出すだけで胸がいっぱい。
急に恥ずかしくなってしまった僕は、櫻井くんと目が合わせられずにいた。
僕たちの横を通りすぎる人たちが、駅方面に向かっていく。
花火が終わった後は、30分ほどで露店が終了してしまう。
「櫻井くん。早くお店、回ろうか」
「うん、行こう」
僕たちは下駄の足並みを揃えて歩き始めた。
「大野くん。浴衣、似合ってるね」
「えっ」
「すごくいいと思う」
「あ、ありがとう。えっと…櫻井くんも良く似合ってるよ」
「本当に?嬉しいな。ありがとう」
…緊張してたからか、気づいたのはだいぶ後になってからだけどね。
僕たちは駆け込みで、じゃがバターとかき氷を食べた。
最後に櫻井くんが買ったのはチョコバナナ。
喉元の汗を拭いながら、チョコバナナにかぶりつく櫻井くん。
それを見て、ドキドキ…な僕。
垂れる汗も、襟元から見える鎖骨も、バナナを咥える口も……エロいんだよなぁ。
「ん~?」
僕の様子を気にしてくれてるのはわかるし、嬉しいんだけど…
原因はあなた…櫻井くんだからね。
今はまだ、ニコニコ美味しそうにチョコバナナを食べる櫻井くんを見ているだけの僕だけど。
いつか訪れるであろうその日のことを思ったら、体が疼いてきて。
それを逃すように、櫻井くんの袖をきゅっと握りしめた。
さっき初めてキスしたばかりだけどね、
いつかは櫻井くんと
あれもしたい、これもしたい。
思いが溢れ出した僕の心の中では…
ロケット花火が打ち上がっていた。
END