第91章 初恋花火
夏休み前の登校日。
教室のあちらこちらから、夏休みに遊ぶ約束を交わす声が聞こえてくる。
僕が耳を集中させているのは、あの人の声。
“うん、行く”
あっ、聞こえた。
…そっかぁ。
行くんだ、夏祭り。
「大野~っ」
「本当にボーッとしてるんだからぁ」
「若いのにジジイだな」
そんな友人たちの声で我に返った。
「ごめん。聞いてなかった」
そんな僕に呆れつつも友人たちが話してくれたのは、さっき向こうからも聞こえた夏祭りの話。
僕は夏祭りってワードを聞いた瞬間、最後まで話をろくに聞かずに
「うん、行く」
そう、さっきあの人がしていたのと同じ返事をした。
話の途中で僕が返事をするなんて今までなかったから、友人たちはかなりビックリしてたけど。
夏祭りでさ、
あの人に…櫻井くんに…
会えるかな、なんて。
「破顔してる」
「頭にお花が咲いてるっぽく見える」
「ジジイがにやけてる」
もう、何とでも言ってくれ。
フンッと拗ねながら、チラッと向けた視線の先。
櫻井くんの大きな瞳と一瞬交差した気がした。