第88章 果てない空
「俺ね。翔くんのこと、もっともっと知りたい」
「う、うん」
「この前さ。パワーがみなぎってきたって翔くんが言ってくれたでしょ。俺自身もね、そうなってきたみたい。自分でもびっくりなんだけどね」
「智くん…」
甘い声をした翔くんの額が俺の肩にくっつく。
「春夏秋冬、一緒に感じていきたい」
チラッと見えている翔くんの耳は真っ赤だ。
それだけでも胸がいっぱいになって、翔くんの体を更にギュウッと抱きしめた。
「あったかいね」
「うん、あったかい」
翔くんの体温に包まれて幸せな気持ちになった。
「智くん。桜、見ようか」
「うん」
抱き合っていた体を離して目が合うと、何だか照れくさかった。
「こっちだよ」
どちらからともなく手を繋ぎ、キッチンの方へ向かう。
「窓開けるね」
翔くんがゆっくり開けていくと、薄いピンク色をした桜が見えてきた。
この時のドキドキした感じは、ずっと忘れないと思う。
「うわぁ…」
暗い夜空に淡く光があたっている桜。
花が重なっているからか、丸くぷっくりしているような形が映えていて、可愛いらしいなって思った。
「本当だ。よく見えるね」
「ねっ、すごいでしょ」
にっこりと振り返った翔くんは息を飲むほど綺麗で…
「んっ…」
吸い込まれるように、唇を重ねた。
「さと、しくん、さくら…」
「んっ…ちゃんと見てる、よ」
「花見…」
「してる、から」
「キス…しながら…?」
「んふふ、そうだね」
翔くんを独り占めしたくなって…
俺は片手でそっと、少しだけ窓を閉めた。
END